最強の18歳・藤井聡太二冠、着付け・筋トレ…「素顔」を語る
コロナ禍で社会が不安定な中で迎えた2度目の春。公式戦で19連勝を続ける将棋の藤井聡太二冠は、どんな気持ちで盤面に向かっているのだろうか。高校を退学し、将棋一筋の生活に入った彼は、「実はいま、着付けや筋トレを始めたんですよ」と意外な素顔を明かした。4月16日、竜王戦2組優勝を果たした直後の彼に、読売「竜王戦」取材コンビが迫った。
(インタビュー)文化部・吉田祐也 (撮影)写真部・若杉和希
着付け、筋トレ…チャレンジの春
吉田 高校を中退して将棋一本になり、4月からの生活スタイルはどうですか。
藤井 以前と変わらないペースでやっています。
将棋より難しい? 和服の着付け
吉田 そろそろタイトル防衛戦が始まるシーズンです。夏の棋聖戦五番勝負を前に、何か準備していることはありますか。
藤井 そうですね、着付けの練習をやっています。
吉田 えっ! そういうことはしないタイプかと思っていました。去年のタイトル戦は全局、着付けをしてもらっていましたよね。
藤井 はい。自分で和服を着ることはできないので。
吉田 何か心境の変化でもありましたか。
藤井 いや、そんなに。ただ、自分で和服を着ることができた方がいいかなと。まあ、何となくです。少しゆるめに着るとか、自分で調整できたらいいなと。
吉田 白瀧さん(東京都練馬区の白瀧呉服店)のところに通って練習しているのですか。
藤井 はい。東京に滞在している時の空いている日に白瀧さんの所に行って、着付けを教わっています。
吉田 何回くらい、着付けの練習をしましたか。
藤井 2、3回です。
吉田 練習して、着られるようになりましたか。
藤井 いやあ、自信がないです。将棋の手順と違って、着付けの手順はなかなか覚えられません。通しで何度かやってはみたのですが、うまくいっているのかどうか、手応えはないです。
吉田 棋聖戦第1局は、自分で和服を着てみますか。
藤井 いや、対局以外で冒険はしません(笑)。第1局は白瀧さんに来ていただく予定です。白瀧さんに着付けていただくか、もしくは自分で着ているところを見てもらって、助けていただきながらとか、そんな感じで。第2局以降のことは、まだ考えていません。
吉田 自宅で着付けの練習をすることは。
藤井 着物は白瀧さんに管理してもらっているので、自宅で和服を着ることはありません。たまに東京に来た時に練習するくらいなので、着る手順があやふやで、自信はありません。
吉田 渡辺明名人、羽生善治九段らトップ棋士は、自分で巧みに着付けをしていますが、藤井二冠もトップ棋士としての自覚から、着付けをしてみようと。
藤井 いや、そんなわけでは。自分で着られたらいいなと、それくらいです。
吉田 和服は好きですか。
藤井 はい。去年、着てみて過ごしやすかったです。夏場のタイトル戦でしたが、けっこう涼しくて。スーツより快適だと感じていました。対局時に着物はいいなと思いました。
吉田 新しい和服を買いましたか。
藤井 はい。夏物を何着か。去年、何種類か和服を着ましたが、今年は新しい和服をお見せできると思います。
写真で見せる…竜王戦の新機軸に興味
吉田 話は変わりますが、豊島将之竜王と羽生九段の戦いを収めた第33期の竜王戦七番勝負写真集をご覧になっていかがでしたか。対局室に3台のリモートカメラを設置するというのは、このインタビュー写真を撮影している若杉カメラマンの新たな試みでした。
藤井 とても興味深く拝見しました。リモートカメラを置いて、将棋の対局を撮影するというのは斬新な発想だと思いました。
将棋の対局はこれまで、Abemaの中継とか、棋士のユーチューブチャンネルとか、動画でファンのすそ野を広げてきました。それは普通の発想だと思うのですが、竜王戦のリモートカメラで棋士の緊迫した対局姿勢を切り取るというのは、将棋の新しい見せ方だと思いました。写真で見せるのは、本当にいいなと感じています。対局者の長考場面など、迫力や臨場感がすごいです。
若杉 温かいお言葉、ありがとうございます。これから先、くじけそうなことがあっても、気を張って撮影に励みます(笑)。
砂むし温泉に興味津々
吉田 竜王戦写真集で気に入ったカット、ページなどありましたか。
藤井 実は、指宿白水館の砂むし温泉の写真が好きで。ああいう場面はいいなあと。砂に埋まるのって、インパクトがありますよね。豊島先生、羽生先生が楽しんでいる様子が伝わってきました。
吉田 砂むし温泉と言えば、ある棋士が有名ですが。
藤井 ははは(大爆笑)。佐々木勇気七段ですよね。佐々木さんは毎年、指宿に行っているイメージがあります。写真集にも写っていましたね。
吉田 竜王戦の対局は読売新聞オンライン、竜王戦公式ツイッター、読売新聞写真部ツイッターなど、昨秋からウェブでも力を入れて紹介しています。ご覧になっていますか。
藤井 はい。そういえば、昨年は読売新聞オンラインの竜王戦コラムなども読みました。そうしたデジタル記事や竜王戦ツイッターの中で、佐々木さんは砂むし温泉が大好きで、「永世砂むし温泉」の称号も持っているとあって、印象に残っています。砂むし温泉は、普通の人は10分くらい入るものでしたか。
吉田 はい。10分から15分くらいです。砂はかなり熱いですし、重いので、それが限度です。5分過ぎから汗が噴き出すイメージです。
藤井 確か、そうでしたよね。でも、佐々木さんは砂を大盛りにした上、25分も入ったとか。めちゃくちゃ我慢強いです。誰もかなわない記録だと思います。
吉田 藤井二冠は砂むし温泉に、かなり興味があるようですね。
藤井 はい。体験してみたいです。
吉田 何分くらいいけそうですか。
藤井 私は我慢することが苦手なので、10分くらい入れたらいい方かと。
吉田 佐々木七段には完敗ですね。
藤井 そこでは勝負しません(一同、大爆笑)
若杉 あの写真集の豊島竜王の浴衣での満面の笑みのカット、あれは先に砂むし温泉から出た豊島竜王が佐々木七段に「あと1時間くらい頑張ってください」と声をかけた時の表情です。会心の一枚です。
吉田 豊島竜王の悪ノリは、珍しいけど、とてもおちゃめでした。
藤井 ははは。そうだったのですか。豊島先生の満面の笑みは印象に残っています。
「自分の写真は一切見ません」
吉田 今期竜王戦は、藤井聡太二冠−広瀬章人八段戦、藤井聡太二冠−松尾歩八段戦など、ランキング戦の対局から竜王戦ツイッターで写真をふんだんに使って対局を紹介しています。
藤井 対局後に見ています。
吉田 松尾八段の苦悩しながら長考する写真とか、ご覧になりましたか。
藤井 はい。とても迫力がありました。
吉田 藤井二冠が熟慮する様子も写真でバッチリ紹介していますが。
藤井 ははは。自分が写っている写真は一切、見ません。大急ぎでスクロールしています(うつむき、恥ずかしがる)。
始めた筋トレ「何とか続けば……」
吉田 高校への通学がなくなって、運動とかどうしていますか。そもそも、全く運動をしないと公言していましたよね。学校や、対局に行く時の徒歩くらいしか運動をしていないと。運動する機会は激減しているのでは。
藤井 ご指摘の通り、運動不足は自分の一番の懸念でした。散歩にチャレンジしたこともあるのですが、三日坊主でした。散歩って、行った先から家に帰らないといけないので、それが面倒くさくて。
吉田 藤井二冠は極度の面倒くさがりですよね。散歩を断念した理由が面白すぎます。顔が知られているから、道行く人から声をかけられて大変というのもありそうですが。ともかく、かなりの運動不足では。
藤井 あまりに運動をしないのもまずいと思いまして、ちょっと前から筋トレというか。まあ、家の中で軽くやっています。
吉田 一大決心ですね。ついに運動を始めましたか。
藤井 はい。今のところ、ある程度、続いています。
吉田 どんな筋トレをやっているのですか。
藤井 腕立て伏せです。
吉田 何回ぐらい。
藤井 連続10回がせいぜいです。
吉田 他には、スクワットとかは。
藤井 いや、スクワットはやっていません。あとは背筋です。そのくらいです。
吉田 写真を撮っていて、最近少し痩せたと思っていました。運動するきっかけはありましたか。
藤井 完全に気まぐれです(笑)。何とか続けばいいのですが。
「本戦で結果を出さないといけない」
吉田 ここからは将棋の話で。本日(4月16日)の2組決勝に勝って、5期連続のランキング戦優勝です。本戦への意気込みは。
藤井 2組優勝はうれしいですが、本戦で結果を出さないといけないです。そこに全力を尽くしたいです。
吉田 トップ棋士らを相手に、半年ほど負けていませんが、棋力が伸びたという手応えは。
藤井 自分では特に感じていません。ただ、今は対局数が少ないので、対局の間隔がかなりあって、疲れもなく、良いコンディションで臨めているのがいいのかと思います。
吉田 本戦の初戦は1組3位と対戦します。相手は稲葉陽八段か山崎隆之八段です。関西棋士との戦いになります。
藤井 あれっ、決勝トーナメントのヤグラはどんな感じなのか。忘れてしまいました。稲葉八段、山崎八段、両先生とも、力強い棋風で強敵です。いいパフォーマンスを発揮できるように、コンディションを整えて対局に臨みたいです。
吉田 対局でお疲れのなか、深夜まで丁寧にお答えいただき、ありがとうございます。
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