「俺の人生は何だったんだ」“懲役6年”元農水次官の息子殺しを止められたターニングポイント――文藝春秋特選記事
「文藝春秋」2月号の特選記事を公開します。(初公開 2020年1月29日)
2019年12月16日、長男を刺殺したとして殺人罪に問われていた元農林水産事務次官・熊沢英昭被告(76)に、懲役6年の実刑判決が言い渡された(12月25日には熊沢被告の弁護人が判決を不服として控訴)。
熊沢被告は同年6月1日、東京都練馬区の自宅で、ひきこもり状態にあった長男(当時44)の首などをナイフで何度も刺し、失血死させた。殺人に至る直接の原因は長男による家庭内暴力だったとされ、世間からは熊沢被告への同情論が集まっていた。判決から4日後、東京高裁は保釈を認める決定を下し、同日午後に被告は保釈。これは殺人罪の被告に対しては異例の対応といえる。
「文藝春秋」は、筑波大学の斎藤環教授(社会精神保健学)にインタビュー。精神科医として30年前から不登校やひきこもりの問題に関わってきた斎藤氏に、事件はどうすれば未然に防げたのかを振り返ってもらった。
「お父さんはいいよね。何でも自由になって」
「お父さんはいいよね。東大出て、何でも自由になって。俺の人生は何だったんだ」
実家での同居を始めた翌日、被害者である息子は泣きながらこう訴えたとされている。斎藤氏はこの場面こそが、状況を変えるためのターニングポイントだったと語る。
「何がそんなに悔しくて辛いのか——両親が揃って、息子と『対話』するべきでした。
ひきこもりを続ける人たちは、自分の人生を失敗だと思いこんでいます。それに耐えられないあまり、失敗の原因を親だと決めつけて責めるようになるのです」
弁解も反論もせず、しっかりと聞き入れる姿勢があったか?
「子供はしばしば現在から逆算し、過去の不本意なことを全て恨んでしまいます。もちろん全く身に覚えのないことについて恨みを言われることも多々あるでしょう。多くの親はそこについ反論してしまいがちですが、事態を悪化させるだけです。『そういう嫌な思いをさせていたなら申し訳なかった』と、弁解も反論もせず、しっかりと聞き入れる姿勢が重要なのです。そうすれば子供は最終的に納得します。
熊沢被告は職業柄非常に冷静なタイプだと推測できますが、そうであるがゆえに、子供の訴えにまともに向き合う価値を感じられなかったのかもしれません。経験から申し上げると、子供が抱える悩みをしっかりと聞いていけば、暴力などの攻撃性はかなり弱まります。1度でも、父親が息子の話に真剣に耳を傾ければ、家庭内暴力の抑止に繋がったはずです」
では実際に家庭内暴力が起こってしまった場合、どのような対応をすれば暴力を止められるのだろうか——。斎藤氏によると、“2つの行動”が最も効果的なのだという。
この他にも熊沢被告の事件から学べる教訓、日本における中高年引きこもりの現状、幸せな家族の形についてまでを斎藤氏が語ったインタビュー「 対話なき“上級国民”家族の悲劇 」全文は、「文藝春秋」2月号、「文藝春秋digital」に掲載されている。
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(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年2月号)
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