中央線「昭和グルメ」を巡る 第8回 カキフライは必食「グルメハウス薔薇亭」(高円寺)
いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、高円寺の洋食店「グルメハウス薔薇亭(ろーずてい)」です。
「高円寺の中通り商店街にさぁ、”薔薇亭”っていう洋食屋があるんだよ。
“ろーずてい”って読むんだけど、そこのママさんのトークが強烈なんだよ」
ずいぶん前から、友人にそう聞かされていたのでした。池袋のあたりに住んでいる彼が、距離的に離れた高円寺の店について力説するということは、きっとなにかあるのでしょう。だから、いつか行ってみなければと思っていました。
ただ、夏ごろにご主人が体調を崩され10月ごろまで休業するという旨の張り紙を発見したんですよね。だから余計に気になっていたのですが、ある日のお昼前に通りかかったところ、「営業中」のプレートが。だとすれば、入ってみるしかありませんね。どんなママさんが出てくるのか、ちょっと緊張しちゃうけど。
店の前に自転車を停めたところ、「自転車の人は声をかけてください」との張り紙が。そこで恐る恐るドアを開けて「すみません、自転車なんですけど……」と声をかけると、「そこにある札をかけといて」とご主人の声が聞こえてきました。
見るとすぐ左側の壁に、「只今、ローズ亭で食事中」と書かれた木のプレートがかかっています。なるほど、これを自転車にかけておけということね。こういう気配りって、ありがたいですよね。
○”ママさんイズム”を感じるド派手な店内
それにしても、店内の装飾がものすごいことになっております。ぬいぐるみや小物、短冊などで埋め尽くされた原色の世界。
新宿に、「新宿タイガー」と呼ばれている派手な新聞屋さんがいますよね。あの方を、そのまま店にしたような感じです(変な表現だけど)。でも、モノがありすぎるのに、なぜか落ち着くんだよなぁ? なんなんだ、この空間は?
そして、至るところに注意書きが。「いすの上に物を置かない様に」「皿や茶碗の中にティッシュ等を入れない様に とっても見苦しいものですから」
なるほどなるほど、これが友人の言っていた”ママさんイズム”なのだな。しかし、そのママさんが見当たりません。マスターにたずねてみたら、体調を崩されてお休みなのだそうです。お会いしてみたかっただけに、それは残念。でも、体調が第一ですから仕方ありませんね。
○看板メニューは”カキフライ”です
それにしてもメニューが多いので、なにを頼んだらいいのかわからなくなってしまいます。考えていたらどんどん混乱してきて、気がついたら「チーズのせハンバーグください」とお願いしていたのでした。
「チーズハンバーグ」ではなく、「チーズのせハンバーグ」というところに惹かれてしまって。しかしこの前、中野の「伊賀」でもハンバーグを頼んだのです。どれだけ機転が利かないのかって感じですね。
しかも帰宅してから調べてみたところ、どうやら看板メニューはカキフライだったようです。言われてみれば、店内も店外も、いたるところで”カキ推し”してたもんなぁ。では、次回はカキフライを頼むということで。
マスターにお話を伺ったところ、ずっとこの場所で営業されており、2019年で48年目なのだとか。僕が小学生のころからあったんだな。そう考えると、「高円寺もチェーン店が増えて、だいぶ変わったよ」ということばにも重みを感じます。
でもここは、チェーン店とは正反対のお店。慣れた手つきで調理をするマスターの姿を見ていると、やはり手づくりはいいなあと思います。それに、値段も抑えめなのではないでしょうか?
「高くないよ、高円寺に合わせてる」
○肉厚なハンバーグに山盛りご飯とキャベツ
さて、ぽつぽつと会話をしていると、まずはハンバーグのプレート、次にご飯と味噌汁がカウンター越しに手渡されました。肉厚な、とても魅力的なハンバーグですね。
そして、背後にそそり立つキャベツの量がまたすごい。”山”という表現が似合います。ふと見上げると、練馬区石神井にある提携農家のキャベツであるという説明がありますね。なるほど新鮮なキャベツで、そのまま食べても甘味が伝わってきます。
「ハンバーグは割ってみると赤いところがあるけど、牛肉なので大丈夫だから」
わざと赤い部分が残るように焼いているということか。たしかに赤みがかってはいるけれど、まったく気になるレベルではないし、むしろ見るからにジューシーな質感に食欲をそそられます。
デミグラスソースもきちんとつくられていて、ご飯との相性も抜群。なお、山盛りのご飯には昆布の佃煮と胡麻がたっぷりかかっているため、「炭水化物ダイエットなんか一時中断させちゃおう」という気になります。
ここはいいお店だなあ。食べることの楽しさを、改めて実感させてくれるようで。まさに中央線仕様の「グルメハウス 」。常連さんがぽつりぽつりと入ってくることにも、充分納得できます。みんな、ここが好きなんですね。
次回は、ぜひカキフライをオーダーしてみよう。そのときには、ママさんにお会いできますように。
●グルメハウス薔薇亭
住所:東京都杉並区高円寺北3-21-20
営業時間:12:00〜14:00(L.O)13:30
18:00〜20:00(L.O)19:30
定休日:月曜日
○著者プロフィール : 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術——情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。
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