令和3年 第四回定例会 区長所信表明
はじめに
前川区長所信表明の様子
令和3年第四回練馬区議会定例会の開会にあたり、区政運営に対する所信の一端を申し述べ、区議会並びに区民の皆様のご理解とご協力をお願いしたいと思います。
はじめに、新型コロナウイルス感染症について申し上げます。
区内の感染者は昨日までに1万7,079人にのぼり、102人の方がお亡くなりになっています。改めて、深く哀悼の意を表し、現在も療養されている皆様の一日も早い回復を祈念申し上げます。
国内では、第5波のピーク時である8月中旬に、1日当たり感染者が、全国で2万5,975人、都内では5,908人にのぼり、東京の医療提供体制は深刻な機能不全に陥りましたが、同月下旬に減少に転じ、政府は、東京都のほか全国18道府県の緊急事態宣言を、9月末に解除しました。その後、都内の直近1週間の1日平均新規感染者は、今月25日現在15.3人にまで激減し、医療提供体制は、通常医療との両立が安定的に可能な状況になっています。これは、ワクチン接種が短期間に進展したことに加え、公衆衛生に対する国民の高い意識の賜物であると思います。
しかし、問題はこれからです。海外では、ワクチン接種の進行により、いったん減少傾向となったものの、オーストリアが22日から全土でロックダウンに踏み切るなど、ヨーロッパを中心に再拡大に転じています。パンデミックとの闘いに楽観論や精神論は禁物であり、何処に落とし穴があるか人類は未だ知らないのです。
引き続き、区民の皆様には、マスクの着用、手洗いや消毒、密閉・密集・密接の回避など、基本的な感染防止対策の徹底をお願いいたします。
特別区の公衆衛生行政は、パンデミックを想定した制度設計になっていません。医療政策は都が担い、公衆衛生は区が担うという役割分担は、平時のものです。今回のような事態にあっては、医療と公衆衛生に関する広域的調整が不可欠です。入院調整やPCR検査などについて、都が強い権限を持って調整を行うことが必要であり、都区の役割分担のあり方を根本から見直す好機であることを、過日、知事に直接、問題提起いたしました。
新型コロナウイルス感染症対策
今月、国は、医療提供体制の強化、ワクチン接種の促進、治療薬の確保など次の感染拡大に向けた安心確保のための取組みを決定したのに続き、コロナ克服・新時代開拓のための経済対策、感染拡大の防止と日常生活や社会経済活動の継続に向けた新たな基本的対処方針を決定しました。
補正予算案の編成
区は、新型コロナウイルス感染症に適時・的確に対応するため、昨年度は6度、今年度は3度の補正予算を編成し、感染拡大の防止と医療提供体制の充実、困窮する区民・事業者の支援、社会インフラの維持など、緊急に取り組むべき対策を実施してきました。
現在、ワクチンの3回目接種の実施などを柱に、今年度4度目となる補正予算案の編成作業を行っており、近くご提案する予定です。
感染拡大の防止と医療提供体制の充実
次に感染拡大の防止と医療提供体制の充実について申し上げます。
1 保健所の体制
保健所の業務について、感染の再拡大に備えるため、国の通知に基づき、1日当たり新規感染者数を基準に、4段階のフェーズを設定しました。段階に応じて人員増を行い、最終段階では、125人体制へと進めます。また、ICTを活用して、自宅療養者の健康状態を把握します。
2 自宅療養者対応「三つの柱」
自宅療養者への医療提供体制を更に強化する「三つの柱」の取組みを、練馬区医師会や練馬区薬剤師会、区内訪問看護事業所、東京都などと連携して、9月に開始しました。
第一に、自宅療養者について、かかりつけ医や薬剤師による健康観察を行います。第二に、症状が悪化した際の、往診医、訪問看護師、訪問薬剤師による連携体制を整えています。この区独自の2つの取組みは、厚生労働省により全国の自治体に紹介されました。
第三に、光が丘第七小学校跡施設に設置した「練馬区酸素・医療提供ステーション」では、抗体カクテル療法も実施出来るようにしています。
3 ワクチン接種
諸外国と比べ、日本がこれほど短期間に驚異的なスピードでワクチン接種を進める事が出来たのは、「練馬区モデル」の果たした役割が大きいと考えています。国と綿密に協議して構築したモデルであり、今では全国自治体の標準となっています。国からも感謝され、誇りに思っています。
区では、主軸となる診療所での接種を6月1日から開始し、既に対象となる区民の8割以上が2回目の接種を終えています。妊婦の方や受験を控えた中学生の優先接種、移動が困難な方のタクシーによる送迎、在宅療養者などへの訪問接種、未接種者への接種勧奨など、区独自のきめ細かな対応を行ってきました。
現在、3回目接種の準備を進めています。2回目から8か月以上経過した18歳以上の方を対象とします。22日に接種券送付を開始し、昨日から予約を受け付けています。現役世代や若年層が接種しやすくなるよう、集団接種会場を12か所から16か所に拡大します。交通利便性の高い会場を追加するとともに、土日・夜間等のニーズにも対応出来るよう、開設日や時間帯を工夫するなど、「練馬区モデル」を更に進化させて実施します。
なお、5歳から11歳の小児への接種についても、円滑に実施出来るよう準備を進めます。
4 経口治療薬への期待
濃厚接触者等の予防薬として、抗体カクテル療法に用いる薬剤の使用が特例承認されたのに続き、現在、経口治療薬の治験が実施されています。自宅での服用で、重症化リスクを下げるものであり、1日も早い承認を期待しています。
困窮する区民・事業者の支援
次に、国の経済対策への対応について申し上げます。
困窮する区民を対象とする緊急小口資金など貸付の申請期限等の延長、住居確保給付金、生活困窮者自立支援金、住民税非課税世帯に対する「プッシュ型」給付金の支給等については、制度の詳細が決定され次第、速やかに実施出来るよう、準備を進めてまいります。
0歳から高校3年生までの子どもへの5万円の給付に速やかに着手し、残る5万円相当のクーポンは、国の事業スキーム決定を待って配付します。
介護、保育、幼児教育など現場で働く方々の収入の引き上げについては、今後示される実施方法等に基づいて対応します。
また、区が独自に取り組んできた、事業者に対する特別貸付及び借換え特別貸付制度については、既に国に先立って今年度末までの延長を決定しており、引き続き、事業継続の下支えとなる資金繰りを支援していきます。
教育振興基本計画の改定
次に、教育振興基本計画の改定についてです。
本年3月に改定した練馬区教育・子育て大綱に合わせて、教育振興基本計画を見直します。大綱の教育目標である「夢や目標を持ち、困難を乗り越える力を備えた子どもたちの育成」の実現に向けて、教育の質の向上、家庭や地域と連携した教育の推進、支援が必要な子どもたちへの取組みの充実を今後5年間の目標とします。
来月素案を公表し、区議会並びに区民の皆様のご意見を頂いたうえで、年度内に成案とします。
映像∞文化のまち構想、練馬区立美術館再整備基本構想の策定
昨年2月に素案を公表した「映像∞文化のまち構想」をこのたび策定しました。令和5年前半にオープンする予定のハリーポッター・スタジオツアー施設を、区の新たな映像文化の拠点と位置付けるとともに、オープンイベントの開催、子どもの頃から映像文化を体験する機会の充実など、大学や企業と連携した取組みを新たに盛り込んでいます。今後、構想に基づき、映画、アニメ、漫画など、区の映像文化資源を活かし、ソフト・ハードが一体となった夢のあるまちづくりを進めてまいります。
練馬区立美術館は、昭和60年に開館し、優れた企画展等により好評を博してきましたが、7,000点を超えた収蔵作品の活用や大規模企画展の開催にはスペースが不足しています。
練馬独自の新しい美術館を創造するため、美術館再整備基本構想策定検討委員会からの提言をもとに、「まちと一体となった美術館」「本物のアートに出会える美術館」「併設の図書館と融合する美術館」の3つをコンセプトとする基本構想を策定します。
敷地を、サンライフ練馬の所在地に拡張して全面改築し、美術の森緑地と商店街・駅へと続く動線を一体化して、美術館を核とした街並みを実現します。来月素案を公表し、区議会並びに区民の皆様のご意見を頂いたうえで、年度内に成案とします。
改定アクションプラン、公共施設等総合管理計画(実施計画)の策定
次に、改定アクションプランについてです。
区はこれまで「第2次みどりの風吹くまちビジョン」に基づき、区独自の幼保一元化施設「練馬こども園」、保育所待機児童ゼロ作戦、都区合同の児童虐待対応拠点、街かどケアカフェ、防災まちづくり推進地区、世界都市農業サミット、練馬薪能など、様々な「練馬区モデル」を構築し、実現してきました。
新型コロナウイルス感染症の影響により、経済・財政状況など、区政を取り巻く環境は大きく変化し、区民生活も大きな影響を受けています。
第2次ビジョンに定める基本理念や区の目指す姿は、コロナ禍においても大きく変わるものではありませんが、社会情勢の変化を踏まえた見直しが必要です。引き続き、区民生活を支える上で必要な施策を充実するとともに、この間に生じた新たな課題に対応するため、4年度から5年度の2か年の取組みを定める「改定アクションプラン(素案)」を取りまとめました。6つの施策の柱に沿って、特徴的な取組みを申し上げます。
子どもたちの笑顔輝くまち
第1の柱は、「子どもたちの笑顔輝くまち」です。
区はこれまで、待機児童ゼロ作戦を展開するとともに、「練馬こども園」を創設するなど、全国トップレベルの保育所定員増を実現し、本年4月に待機児童ゼロを達成しました。引き続き、保育定員の拡大に努め、待機児童ゼロを継続していきます。また、マイナポータルを活用して、スマートフォンやパソコンから入園申込が出来るようにします。希望する子育て支援サービスを簡単に探し、申し込むことが出来る「(仮称)ねりま子育て支援アプリ」の開発に取り組みます。
昨年7月、都内で初めて、練馬区と東京都が合同で設置した虐待対応拠点は、着実に成果を上げています。今後、都区連携による児童相談体制の更なる強化を目指します。
教育分野では、中学1年生を対象に、実践的な英語を体験する夏季イングリッシュキャンプを開始するとともに、小学校高学年には技能検定を導入して、英語力を高めます。
高齢者が住みなれた地域で暮らせるまち
第2の柱は、「高齢者が住みなれた地域で暮らせるまち」です。
団塊世代の全てが後期高齢者となる令和7年に向けて、介護が必要になっても住みなれた地域で安心して暮らせるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的、継続的に提供される地域包括ケアシステムを確立しなければなりません。
これまで区は、介護保険施設等の整備、在宅サービスの充実に積極的に取り組み、特別養護老人ホーム、都市型軽費老人ホーム、看護小規模多機能型居宅介護の施設数は、既に都内最多です。在宅での生活が困難な方が、希望する時期に入所出来るよう、引き続き、特別養護老人ホームの増設・増床に取り組むほか、都市型軽費老人ホームなどの整備を進めます。
交流、相談、介護予防の拠点となる街かどケアカフェを、地域サロンとの協働や敬老館の機能転換などにより、7か所増設します。
地域包括支援センターは、より身近で利用しやすくなるよう、区立施設等への増設や移転を進めます。
安心を支える福祉と医療のまち
第3の柱は、「安心を支える福祉と医療のまち」です。
障害者の高齢化・重度化、家族の高齢化が進むなか、障害特性やライフステージに応じたサービスの重要性が増しています。光が丘病院や区内特別養護老人ホームの空床を活用して、ショートステイを開始します。障害者一人ひとりの自立した地域生活を実現するため、「(仮称)練馬区障害者の意思疎通に関する条例」を制定し、「ICTを活用した遠隔手話通訳設置事業」「コミュニケーション理解促進事業」などを順次実施します。
新型コロナウイルス感染症が、生活・就労・子育てに与えた影響など、ひとり親家庭の状況についてニーズ調査を実施し、自立に向けた支援策を充実します。ヤングケアラーを支援するため、福祉、子育て、教育など各部門が連携した取組みを行います。
コロナ対策の継続と感染症発生時の連携体制を強化するため、「新型インフルエンザ等医療対策連絡会」を、「(仮称)練馬区感染症ネットワーク会議」に改組します。区、区内病院、医師会、歯科医師会、薬剤師会に、新たに福祉施設、教育施設等を加え、連携して情報共有や相互支援のあり方を検討していきます。
順天堂練馬病院において、新興感染症等拡大時の医療体制や三次救急レベルの医療機能の整備、災害時の応急処置等の対応スペースなどの確保を促進します。
安全・快適、みどりあふれるまち
第4の柱は、「安全・快適、みどりあふれるまち」です。
地域の災害リスクに応じた攻めの防災を進めます。木造住宅の密集する地域では、密集住宅市街地整備促進事業に加え、区独自に指定した「防災まちづくり推進地区」で、道路の拡幅、建築物の不燃化などを推進します。一般緊急輸送道路の沿道建築物の耐震化を促進し、避難や救助、救援活動のルート確保を進めます。
石神井川流域の、特に水害リスクの高い地域にある特別養護老人ホームなど要配慮者利用施設については、避難確保計画の作成や訓練の支援に取り組みます。地域の皆様と協働で、引き続き「地域別防災マップ」を作成し、これを活用した訓練を実施します。
西武新宿線の連続立体交差化は、本日、都市計画が決定告示されました。1日も早い事業着手を目指し、東京都や鉄道事業者、沿線区市と連携して取り組んでいきます。大江戸線延伸の早期事業化に向けて、駅・トンネルの構造、車両の留置施設などについて、東京都との協議を加速します。石神井公園駅周辺では、引き続き、駅南口西地区の市街地再開発事業が円滑に進むよう、準備組合の取組みを支援します。
練馬のみどりを未来へつなぐため、みどりの拠点の整備や区民の皆様との協働による保全に取り組みます。稲荷山公園、大泉井頭公園の整備に向けた検討を進め、石神井松の風文化公園の拡張に着手します。練馬城址公園については、区の求める機能を備えた公園の実現に向け、引き続き東京都や関係者と調整していきます。
2050年までの脱炭素社会の実現に向け、新たな環境基本計画を策定します。再生可能エネルギーの導入促進、先進技術の活用、更なるごみの減量・資源化など、区民・事業者と協働して、総合的な環境施策を展開していきます。
いきいきと心豊かに暮らせるまち
第5の柱は、「いきいきと心豊かに暮らせるまち」です。
事業活動のデジタル化が急速に進んでいます。区内事業者を支援するため、練馬ビジネスサポートセンターでの専門相談、融資制度の新設などを行います。練馬区商店街連合会と連携して、「(仮称)スマート商店街プロジェクト」を展開するとともに、複数の空き店舗を活かした商店街の賑わいをサポートします。
「(仮称)全国都市農業フェスティバル」の5年度開催に向けて、準備を進めます。都市農業に先進的に取り組む国内都市から、農業者や行政関係者を招聘し、都市農業の魅力の発信、共有・共感に繋がるイベントを企画します。
農の風景育成地区に指定されている高松地区及び南大泉地区で、地域住民による農地保全活動を引き続き支援します。高松地区では、「(仮称)農の風景公園」を開設する予定です。
区民とともに区政を進める
第6の柱は、「区民とともに区政を進める」です。
区民協働による住民自治の創造を目指し、地域活動の活性化に取り組みます。町会・自治会の加入案内や広報活動にSNS等を活用出来るよう、実践事例集を作成するとともに、専門アドバイザーを派遣します。
また、1か所で開催していた「練馬つながるフェスタ」を区内6地域に拡大し、団体同士の交流を進めます。
次に、窓口改革についてです。感染拡大防止と利便性向上のため、住民票や印鑑証明書などの発行手数料や、乳幼児一時預かり事業利用料の支払いに、キャッシュレス決済を導入します。お悔みに関する専用の窓口を設置し、多岐にわたる手続きの申請書などを一括してお渡しするとともに、関係機関をご案内し、ご遺族を支援します。
次に、DXデジタル・トランスフォーメーションの推進についてです。限られた財源、職員で、多様化する区民ニーズに応え、必要な行政サービスを確保するために、制度やサービス、業務、組織のあり方等をデジタル化に合わせて変革していくDXが求められています。
デジタル化による業務改革を推進します。紙や対面を前提とした業務のあり方の見直しを行い、区民の視点に立って、サービスの利便性や質の向上に取り組みます。区のDX推進方針を策定するとともに、日々進歩するデジタル技術を存分に活用出来る人材の確保、職員の育成に取り組みます。
次に、練馬区公共施設等総合管理計画について申し上げます。
コロナ禍の緊急対策として延期した事業等も含め、区民の安全性の確保、将来にわたる財政の持続可能性の確保等の観点から、改めて優先順位を精査し、4年度、5年度に取り組む改修・改築や委託・民営化の内容を整理しました。
改定アクションプランと合わせて、来月素案を公表し、区議会並びに区民の皆様のご意見を頂いたうえで、年度内に成案とします。
おわりに
バブル崩壊以来30年の永きにわたり、経済が低迷しています。そこをコロナ禍が直撃しました。GDP成長率は今年に入り徐々に回復が進むものの、IMFの世界経済見通しでは、世界平均の5パーセント台を下回る、2.4パーセントの増しか見込まれていません。年金、医療、介護など社会保障費の増加が不可避であるにもかかわらず、今年度末の債務残高の対GDP比は250パーセントを超える見通しです。
私は終戦直後の生まれで、戦後の貧しい時代、目くるめくような高度成長期、バブルの崩壊とデジタル化の決定的な立ち遅れによる経済の低迷、そしてコロナ禍へと様々な局面を経験してきました。日本経済の停滞をもたらした根本の原因は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少ですが、それだけではないと考えます。国際社会で日本が占めるべき位置、経済成長の見通しと具体的な戦略、方法論について、今まさに根本的な議論が必要であると思います。
こうした状況においても、私たち基礎的自治体に求められているのは、コロナ対策はもちろんのこと、地域や現場の声を聴きながら、将来につながる施策を重点的・機動的に実施していくことです。
こうした私の区政に臨む姿勢が変わることはありません。引き続き、区民の皆様、区議会の皆様と手を携えて、全力で取り組んでまいります。
なお、本定例会には、39件の議案を提出しております。宜しくご審議のほど、お願いいたします。
以上をもちまして、私の所信表明を終わります。
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