11年前の確定判決、異例の取り消し…東京高裁

 東京高裁(中西茂裁判長)が7月、「被告側に裁判が起こされたことを伝えないまま裁判を開いたのは違法」として、2007年8月に確定していた民事訴訟の1審判決を取り消していたことがわかった。1審の裁判所が、被告の住所が判明しているにもかかわらず訴状を郵送せず、提訴されたことを掲示板に貼り出す「公示送達」の手続きを経て審理に入っていたことが問題視された。確定判決が10年以上を経て取り消されるのは異例。


 問題になったのは、埼玉県の男性(68)が東京都練馬区に住んでいた女性(45)に800万円の損害賠償支払いを求めた訴訟。男性は07年、現金をだまし取られたとして、代理人を付けない本人訴訟でさいたま地裁川越支部に提訴した。

 民事訴訟は、訴状が被告の手元に届いた段階で始まるとされ、送達先は原告側が確認する必要がある。男性が女性の住所地を調べたところ、表札もなく、居住が確認できなかったため、「女性は無断で引っ越した」と判断。同年6月、同区役所から取得した女性の住民票(除票)を同支部に提出し、公示送達を申し立てた。

 除票には女性の転居先の住所が記載されていたが、同支部はこれを見落として男性の申し立てを認め、訴状が提出されたことを示す書面を敷地内の掲示板に貼り出した上で、同年7月に第1回口頭弁論を開いた。女性が出頭しないまま、同支部は男性の請求を認める判決を言い渡し、同年8月に確定した。

 しかし、この賠償の請求権(10年)が時効を迎える昨年になっても女性から支払いがなかったため、男性は新たに、時効の中断を求める訴訟を同支部に提起。女性はこの新たな訴訟の訴状を受け取った際、自分が07年にも訴訟を起こされていたことを知ったという。

 女性は「知らないところで行われた訴訟は無効」として昨年12月、07年の1審判決の取り消しを求め、東京高裁に控訴を申し立てた。

 これに対し、今年7月19日の高裁判決は、「除票に記載された住所を確認しないまま行われた公示送達は無効だ」とした上で、「原告男性は除票の記載内容を理解できなかった可能性があり、(同支部は)男性に調査を促すべきだった」と指摘。同支部の訴訟手続きは違法だったとして、確定していた1審判決を取り消し、改めて審理するよう同支部に命じた。

 女性の代理人弁護士は、「1審には明らかな落ち度があった。前代未聞の事態で、裁判所は再発防止に努めてほしい」と話している。一方、さいたま地裁は「高裁から記録が届いていないため、コメントは差し控える」としている。

     ◇

 ◆公示送達=訴訟当事者の住所などが不明の場合、裁判所書記官の権限で、訴状や呼び出し状、判決などが出ていることを示す書面を、裁判所の掲示板に貼り出す特別な手続き。原則、掲示から2週間が経過すると相手方に到達したとみなされ、効力が生じる。住所の特定に時間がかかることで裁判が長期化する事態を避けるなどの目的がある。

引用元:BIGLOBEニュース

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