移住高齢者 元気なシニアが地方暮らしを選ぶ理由 山形・酒田
山形県酒田市は、国の地方創生推進交付金などを活用して建設した賃貸マンションに3月末、首都圏などからの移住者を受け入れる。地域活性化を狙った試みで、入居予定者は中高年が中心だ。市内には高齢者に活動的な移住生活を提供して成功している企業もある。地方暮らしを選ぶシニアの移住事情とは。
食、自然、人
同市がこのほど地元業者と連携し建設したマンション(鉄筋3階建て、18室)は、観光名所の国指定史跡「山居倉庫」のそばにある。隣接する交流棟にはNPO職員が常駐し、新たな土地での暮らしに関する入居者からの相談に応じる。
入居者の募集では、酒田市を含む庄内地域と半世紀以上、コメの取引などを通じて交流のある生活クラブ生協連合会(東京)と連携。「産地で暮らす」とアピールしたところ、組合員を中心にすぐ満室になったという。
「老後をひとり高齢者住宅で心細く過ごすのは嫌。おいしさがわかるコメなどの豊かな食と自然がある街で、人とつながって前向きに生きたい」。入居を決めた東京都練馬区の女性(63)はこう明かし、読み聞かせなどを通じて子どもと接する仕事を始めたいと希望に胸を膨らませる。このほか、50〜60代を中心に千葉県や埼玉県などから約30人が入居する予定だという。
市地域共生課の五十嵐康達・課長補佐は「『酒田って、どこ?』から始まるこれまでの勧誘とは違い、食を通した思いや熱が下地としてあるので話が早い」と手応え十分。定住後の就業支援などの態勢を整え、民間のアパートや戸建ての活用も視野にさらなる移住促進に注力する構えだ。
元気なうちから
一方、民間ではこれに先んじて、高齢者の生きがいに着目した動きが進んでいる。
同市で高齢者や障害者の介護事業を手がけるイデアルファーロ(斎藤和哉社長)は2007年、フロントサービス付き賃貸マンション「未来創造館」(鉄筋5階建て、32室)をオープン。旬の素材を使った食事やサークル活動など多様なメニューをそろえ、首都圏などから移り住んだ60〜90代の30世帯が暮らす。新たな入居はキャンセル待ちという。
このマンションは、退職した高齢者らが共同生活する「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」と呼ばれる方式を採用している。1970年代に米国で発祥したとされ、介護が不要な段階から入居し、地域活動などにも参加しながら「健康長寿」を目指すのが特徴だ。必要に応じて介護・医療などのサービスを受けることもでき、地方移住を呼び込む手立てとしても注目されている。
同社の斎藤緑会長はCCRCを始めた経緯を「女性同士で老後の話題になったとき『生活の質を高めて、わがままに優雅に暮らしたい』と言い合ったこと」と振り返る。それには元気なうちから健康維持と社会生活を両立するCCRCが理想的というわけだ。
地域の魅力も
現在、入居者の大半は我が子が市内で働いているなど酒田と縁がある首都圏の高齢者だという。斎藤会長は「明るく打ち解けやすい市民の気質や、医療機関と介護事業者などの連携が進んでいることも安心材料になっている」とみる。完全に見知らぬ土地へ移り住むことには不安がつきもの。同時に、人を引きつけるには地域の魅力も必要だということだろう。
入居者の反応は上々だといい、同社の渡部雅美執行役員は「死を意識すると生が輝きだし、どう暮らしたいかが明確になってくるのでは。健康的な食事や施設内外での触れ合いでみるみる元気になって、逆に戸建てに住み替えていく人もいるんですよ」と笑う。
地方移住が「第二の人生」に輝きを与え、地域も活力を増す——。そんな好循環の広がりが期待される。【長南里香】
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