ホームドアない駅は「欄干ない橋」と同じ…視覚障害者に死の恐怖「整備急いで」
鉄道駅のバリアフリー施設で整備が急がれるのが、ホームドアだ。視覚障害者の転落事故は毎年60〜80件起きており、死亡事故も絶えない。視覚障害がある人たちからは早期整備を求める声が上がるが、新型コロナウイルスによる鉄道各社の経営悪化の影響も懸念される。(越村格)
「痛みよりも、列車にひかれる恐怖を先に感じた」。
15年近く前、東京都練馬区の西武池袋線大泉学園駅でホームから転落した鍼灸(しんきゅう)師の男性(61)は振り返る。
30歳代で網膜色素変性症を発症し、すでに光が少し分かるぐらいの視力だった。鍼灸の勉強会に参加するため、自宅近くの大泉学園駅を利用した時のこと。電車がホームに到着した音が聞こえ、一歩踏み出したところ、線路へ転落し、足に強い衝撃を受けた。
「電車にひかれ、死んでしまう」。最初に感じたのは痛みよりも死の恐怖だった。立ち上がって手を伸ばすと、ホームの端をつかむことができた。何とかはい上がり、手足の打撲程度のけがで済んだ。
転落したのは、向かいのホームに到着した電車の音が反射して錯覚を引き起こしたためだった。その後も何度か、気づいたらホームの端にいて、ヒヤリとしたことがある。男性は「運良く足をひねらずに済み、電車も来なかった。視覚障害者にとって、駅のホームを歩くのは、欄干のない橋を渡っているようなもの。ホームドア整備を急いでほしい」と訴える。
国土交通省によると、ホームドアは2020年3月末で、858駅(1953か所)に設置されているが、全9500駅の1割未満にとどまる。設置は1か所当たり億単位の費用が必要で、終電と始発の間しか作業ができず時間もかかる。
感染拡大で、整備計画への影響も懸念される。JR東日本は33年3月末までに、330駅660か所の設置を計画するが、コロナの影響で21年3月期連結決算は最終利益が5779億円の赤字となった。担当者は「優先度は高いが、苦しい状況で計画に影響がないとは言い切れない」と話す。
全国の転落事故はピークだった14年度の3673件から減少傾向にあるものの、19年度は2887件にのぼった。国交省は昨年10月、鉄道事業者と視覚障害者団体、専門家らを交え、ホームドア設置までの対策を検討する会議を設置。カメラや人工知能(AI)を活用する案が検討されており、近く中間報告をまとめる。
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