梅雨どきの「関節痛」屈伸でポキポキ音が鳴ったら要注意!うっかり悪化の日常動作
更年期以降の女性はリスクが上がる関節痛。「特に梅雨時季は痛みを訴える人が増えます」と語るのは関節ケアのスペシャリスト、整形外科医の丸山公先生。痛む前の危険な兆候は? やっちゃいけない関節トレーニングって? 超高齢社会で増え続ける関節痛の必読マニュアルをお届けする。
男性より女性のほうが2.3倍も多い
高齢化に伴い、年々関節痛を訴える人は増えている。
関節が傷み、変形した場合に行う人工関節手術の件数は、10年で1.5倍近くに増加(膝関節の場合。’07年と’17年を比較)。
また、関節疾患は、要介護・要支援の主な原因のひとつ。健康寿命を延ばすためには関節を健康に保ちたいが、気になるのは関節痛を訴える人は女性のほうが多いことだ。
’19年の国民生活基礎調査では、「最も気になる症状」として「手足の関節が痛む」を挙げた人は、男性より女性のほうが2.3倍も多い。これほどまでに男女差がある理由を、整形外科医の丸山公先生は「更年期以降に女性ホルモンのエストロゲンが減少することが大きい」と説明する。
「関節痛と聞くと骨のトラブルをイメージしがちですが、実は関節が動くときにクッションとなる軟骨のトラブルなのです。エストロゲンには、この軟骨を守る働きがあり、その分泌が減ると軟骨が変形、関節が傷みやすくなってしまいます」(丸山先生、以下同)
更年期以降の女性の悩みのタネともいうべき関節痛。その訴えは、梅雨どきに増える。
「天候によって引き起こされる“天気痛”は昔から知られています。当院でも、痛みを訴える患者さんが増えると感じています。理由ははっきりしませんが、梅雨どきは雨が降って寒暖差がありますし、気圧が低下する。冷えると人間は痛みを感じやすくなります。気圧が下がると血圧や心拍数が上がり、それが痛みやすさにつながるという説も」
更年期以降の女性が抱える関節の悩みはさまざまだ。指の第1関節が曲がってしまう「へバーデン結節」、親指の付け根に痛みが生じる「母指CM関節症」などが女性に多いのは、長年家事で手指を酷使するからと考えられている。また、指先で重いレジ袋などの荷物を持つ動作も発症につながるので要注意だ。
免疫の異常により、関節が炎症を起こすリウマチも女性に多い病気。しかし、圧倒的に多いのが、膝に痛みが出る「変形性膝関節症」だと丸山先生は話す。
「二足歩行をする人間にとって、膝関節は歩くときに体重がかかる最も大きな『荷重関節』。そのクッションとなる膝の軟骨はもともと厚さ2ミリほどしかなく、加齢によりたった1ミリほどになってしまいます。骨はある程度再生しますが、軟骨はほぼ再生しないので、気づいたときには手遅れということも」
早く気づくために意識してほしいのが『音』
膝の軟骨がすり減るとやがて炎症を起こし、関節が変形し、「変形性膝関節症」に。その主な症状は歩行時の膝の痛みと、水がたまること。この水には、軟骨を壊す酵素が含まれている。
「よく『膝の水を抜くとクセになるので抜きたくない』という人がいますが、それは間違いです。取り除かないと炎症を繰り返す悪循環になる。放置すると関節がパンパンに腫れて関節はゆるくなり、変形も進みます」
そうなると関節が動く範囲が狭くなり、やがて膝がまっすぐ伸びなくなり、股関節も屈曲。背骨が曲がる原因にもつながる。
「いわゆる『お年寄り』の典型的な歩き方です。これも最初は膝の痛みから始まる。背が曲がると背骨が圧迫されますから、気づかないままに骨折する『脊椎圧迫骨折』を引き起こすこともあります」
自分の足で一生歩くためには、膝関節の異常にいち早く気づくこと。そのサインとして、丸山先生は膝の痛み、腫れ、膝の熱っぽさなどを挙げる。平らなところを歩くのは平気でも、階段の歩行、特に下りで膝が痛む場合も要注意。
「そういった症状が出るころにはかなり悪化しているケースもあります。もっと早く気づくため、意識してほしいのが『音』なんです」
膝を曲げ伸ばしすると、ポキポキ、バリバリといった音がすることがある。これは関節の中の滑膜という組織が引っかかる音で、音がすること自体は問題ない。ただ、この音が大きくなってくるようなら膝関節軟骨に異常が起きている可能性が高い。
さらに、変形性関節症は複数の原因が絡み合って起こる病気のため、若い時にスポーツで関節を痛めている人や、祖父母や両親に変形性関節症を患っている人が多い場合も注意したい。
「関節を痛めるケガではなくても、例えば靭帯にケガをした場合、関節には関係ないと見過ごしがちですが、加齢によって靱帯にゆるみが生じ、それが軟骨の傷みへとつながっていくケースも多い。また、変形性関節症の理由のひとつが遺伝だと考えられているんです」
では、膝関節の痛みを予防するにはどうしたらよいのだろうか。キーになるのは体重管理と筋力だ。まず、体重が増えればそれだけで膝関節への負担が増大してしまう。
「危険信号の目安は、肥満度を表すBMIが25以上です」
体重を支え、関節にかかる負担を減らす足の筋肉も大切。
「ここで注意したいのがスクワット。運動不足の人がいきなりハードなスクワットをすると、かえって関節を痛めてしまいます。おすすめはウォーキング。膝関節を守るポイントを押さえれば、1日15〜30分でも効果は十分ですよ」
膝関節の痛みを遠ざけるウォーキング法
そのコツとは、靴底の内側を使って歩くよう意識し、かかとからつま先へと重心を移動すること。横隔膜を引き上げるイメージで、お腹をへこませるのもポイント。
「お腹に力を入れずにダラダラ歩くと、靴底の外側に重心がかかり、O脚の原因に。膝関節への負担が増えるO脚は、変形性膝関節症の始まりです」
自分の足のアーチに合ったシューズを用意することも重要。足を前から見たときには足の甲に、横から見たときには土踏まずにアーチができているのが理想だ。
女性が好むハイヒールは、つま先が細く体重が前方にかかるため、膝関節痛の原因になる外反母趾を招く。また、階段の下りは膝関節への負担が大きいので、ゆっくり静かに下りることが大切だ。同じ理由で、アスファルトの上でのランニングもNG。
かかとでトントンと床を叩く運動は骨密度を高めるといわれているが、力加減を間違えると膝関節を傷めてしまう。
「日常で膝関節に負担をかける動きは、膝を深く曲げて体重をかける姿勢とひねる姿勢。よって、正座や横座りもよくありません。和室や和式トイレなど日本特有の生活スタイルはリスクが高いといえますね」
栄養面では、関節軟骨を丈夫にするトリペプチドコラーゲンの摂取も有効。症状悪化の信号を見逃さず、関節の健康寿命を延ばしたい。ただし、「痛みがある場合は、整形外科を早めに受診してください」
取材・文/仲川僚子
丸山 公先生 スポーツ医。全国から膝に痛みを抱える患者が集う膝関節疾患のスペシャリスト。東京・練馬区にある関町病院院長。練馬区整形外科医会会長も務める。
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