岩波ホール、54年の歴史に幕 埋もれた映画発掘、多様な作品上映

 世界の多様な映画を日本に紹介してきた東京・神保町のミニシアター、岩波ホールが29日、閉館した。1968年に多目的ホールとして開館し、74年、インド映画「大樹のうた」を上映して以来、66カ国・地域の274作品を上映。最後の作品はドイツのベルナー・ヘルツォーク監督によるドキュメンタリー映画「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」だった。


【勝田友巳】

 29日午後7時からの最終回は、約200席が満席となった。上映前に岩波律子支配人が登壇してあいさつ。総支配人の高野悦子さん(2013年死去)の功績とホールの歴史を紹介し、「上映を通じて映画は文化だと確信した。苦労している他の映画館にも足を運んでほしい」と呼びかけた。同9時前に上映が終了すると、場内から大きな拍手が起こった。

 東京都練馬区の会社員、橋本武さん(54)は、この日は仕事を休み、午前中に最終回の入場券を購入したという。「大学生で『八月の鯨』を見て以来、他では見られない映画を見るためにしばしば通った。閉館は残念」と惜しんだ。同墨田区の出版社員、近藤志乃さん(52)は、08年以来、同ホールの全上映作を見てきたという。「反戦を訴える映画を上映するなど、理念を持っていた。異なる民族や文化の存在に気付かせてくれた。雰囲気も独特で、ここに来ることが目的となる、特別な映画館だった」と話した。

 岩波ホールは高野総支配人の下、世界の優れた作品を選んで紹介。イタリアのルキノ・ビスコンティ、スペインのルイス・ブニュエルら巨匠監督の旧作を上映したり、中南米やアフリカなどメジャーではない国々の映画に光を当てたりと、多様な作品を上映してきた。

 埋もれた映画を世に出す「エキプ・ド・シネマ(映画の仲間)」の活動として、会員制でファンを募り、岩波ホールだけで公開するスタイルを確立。これに続いて、東京都内を中心にミニシアターが次々と開館し、80年代後半のミニシアターブームをけん引した。高齢化社会や男女格差など、社会問題をテーマとしたドキュメンタリーや女性監督の作品も積極的に発掘。日本の映画文化の拡大、浸透に大きな役割を果たした。

 ただ、近年は観客減少が続き、新型コロナウイルス禍を機にホールの運営主体である岩波不動産が22年1月、閉館を決めていた。

引用元:BIGLOBEニュース

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